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研究内容について の履歴(No.7)


グラフェン応用研究について(2010.09.21)

 上野研究室で進めているグラフェンの応用研究について簡単にまとめたPDFファイルを公開します(2010年夏バージョン)。下記から参照できます。
fileグラフェン研究2010夏.pdf (516KB)

上野研究室の研究概要

 上野研究室では,実験装置のページで紹介した超高真空装置・原子間力顕微鏡などを用いて,現在以下のような研究を進めています。

層状物質を用いたフレキシブル素子の形成

 現在盛んに研究が進められている有機電界効果トランジスタ(FET)の用途として注目されているのは,折り曲げても動作するような「電子ペーパー」や「フレキシブルディスプレイ」を実現するために,柔軟なフィルムや紙の上に有機FETを形成する,といった応用である。堅い共有結合が必要なシリコン半導体とは異なり,柔軟なπ電子共役系を持つ有機薄膜であれば柔軟性を持たせられる,というわけである。しかし現状の有機薄膜は低分子系・高分子系ともに多数の欠陥を含んでおり,高移動度・高速動作を実現するのは難しい。一方,MoS2やグラファイトといった層状物質は,2次元的な単位層は共有結合で形成され,それら単位層が弱いファンデルワールス力で積層した構造を持つ。そのため単位層内においては高いキャリア移動度が期待できる一方,層間に強い結合がないため薄膜に柔軟性を持たせることができる。現在,様々な層状物質を用いてFETを形成する手法について検討を進めている。

 また,グラファイトの単層2次元シートであるグラフェンは,その特異な電子帯構造に起因する新奇物性の研究が活発に行われている。上野研究室では,単層グラフェン薄膜を,グラファイトの酸化・単層剥離・薄膜形成・還元というプロセスで形成する研究を進めており,これまでに高い電気伝導度と透明度を併せ持つグラフェン薄膜を塗布法によって形成することに成功している。(詳細はこちら

グラフェン水溶液
図:酸化グラファイトの単層剥離により生成した酸化グラフェンの水溶液。

 現在,上記の方法で形成したグラフェン薄膜を電極として用いた有機薄膜素子の開発を進めている。具体的には,

  • グラフェン薄膜を透明電極として用いた有機薄膜太陽電池の塗布法による形成。
  • グラフェン薄膜を中間電極として用いたタンデム型有機薄膜太陽電池の開発。
  • グラフェンをアクセプタとして用いた有機薄膜太陽電池の開発
  • グラフェンをソース/ドレイン電極として用いた高移動度有機電界効果トランジスタの開発。

といった研究を行っている。

無秩序−秩序界面の創成による高性能有機FETの作製

 有機FETはチャネル層である有機活性層をゲート絶縁体基板上に薄膜成長して形成されることが多いが,このゲート絶縁体には専ら熱酸化SiO2等の酸化物や高分子膜が用いられており,どちらにしてもその表面はアモルファス状である。一方,今後有機FETの性能を向上させるためには,有機チャネル層の欠陥をできるだけ減らし,さらに分子配向性にも均一性を持たせる,つまり広い範囲に渡って連続した単結晶薄膜を成長する必要がある。しかし,アモルファスという無秩序表面上へそのまま有機薄膜を成長するのでは,秩序を持って連続した単結晶薄膜を形成することは不可能である。

 しかし,アモルファス表面上に,人為的に何らかの秩序をもたらすことができれば,有機薄膜の秩序性を改善できる可能性がある。このような観点から現在,

  • 通電加熱により微傾斜Si(111)表面に直線状ステップ束/平坦テラスの周期構造を形成し,テラスの平坦性と直線状ステップによる分子配向を利用して有機薄膜の秩序性改善を図る。
  • 水面上単分子膜(L膜)を平坦なアモルファス基板表面に転送することによって基板表面に秩序性を持たせ,その上に成長する有機薄膜の秩序性改善を図る。

といった実験を進めている。

高配向PDT薄膜
図:ステップバンチSi(111)表面上への高配向ポリチオフェン薄膜形成。

陽極酸化法による高誘電率ゲート酸化皮膜の形成

 現在多くの有機FETは形成が容易で絶縁性の高い熱酸化SiO2基板上に形成されている。しかし熱酸化SiO2は比誘電率が4程度と低いため,物性を変えられる可能性のある量の電荷を有機層に注入することは難しい。そこで現在,比誘電率が27程度と高い値を持つTa2O5をゲート誘電体として用いることを検討している。Ta2O5薄膜の形成方法としては,電解研磨により平坦化したTa2O5箔上に,陽極酸化法によって形成する方法について研究を進めている。

PVA上両極動作FET
図:ポリビニルアルコールを塗布したTa2O5ゲート基板上に形成した両極動作ペンタセンFETの出力特性グラフ。

将来の研究(願望)

現在進行中の研究は以上ですが,将来的には,

  • 完全終端表面不活性基板の形成と評価
  • 無機固体基板上で位置制御された局所的有機化学反応の実現
  • 表面不活性化基板上への新奇量子ドット構造形成
  • nm, meV分解能表面分析手法の開発

といった研究を行いたいと思っています。