カルコゲナイド系層状物質 の履歴(No.3)
- 履歴一覧
- 差分 を表示
- 現在との差分 を表示
- ソース を表示
- カルコゲナイド系層状物質 へ行く。
本ページについて†
- このページでは,「カルコゲナイド系層状物質」の種類,単結晶/単層膜/薄膜の形成手法,および素子応用について紹介します。
- 本ページ作成者:上野啓司
- 作成開始:2012年12月9日
(本ページ内容は随時更新しております)。
はじめに†
2004年にUniv. ManchesterのK. S. Novoselov, A. K. Geimらによって,グラファイトの1単位層である「グラフェン」の大面積試料が初めて絶縁性基板上に形成され,それ以降グラフェンの持つ特異な物性に関する研究が目覚ましく進展した1)2)3)4)5)
。その一方で,グラファイトと同様な積層構造を持つ数多くの層状物質も再び注目を集めている。層状物質はその2次元構造に起因する特徴的な物性に興味が持たれ,古くから多くの研究が行われてきているが,最近ではそれらの1単位層,あるいは数層が積層した試料が示す新奇な物性に特に注目が集まっている。
本稿では最初にさまざまな層状物質を簡単に分類し,その中から筆者が主に研究対象としている層状カルコゲナイドの構造,物性について紹介する。続いて層状物質単結晶及び単層膜試料の作製手法や,最近の新しい層状物質研究の動向について述べる。最後にグラフェン以外の層状物質のデバイス応用に関する筆者の最近の実験を紹介する。なお,グラフェンのデバイス応用に関する筆者の研究については,別ページを参照されたい。
層状物質の分類†
層状物質は,共有結合やイオン結合のような「強い」結合により形成されている単位層が,主に「弱い」ファンデルワールス力を介して積層した層状構造を持つ。雲母,粘土,グラファイトあるいは輝水鉛鉱(モリブデナイト:molybdenite, MoS2)のような層状物質の天然鉱物は非常に古くから知られており物性研究の対象とされてきたが,その他にも人工合成可能な層状物質が多数存在する。表1に主な層状物質をまとめる。
分類 | 物質の例 |
単原子層状物質と 類似化合物 | C(グラファイト),P, As, Sb, Bi, h-BN |
遷移金属ダイカルコゲナイド | MCh2: M=Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W等 Ch=S,Se,Te |
13族カルコゲナイド | GaS, GaSe, GaTe, InSe |
14族カルコゲナイド | GeS, SnS2, SnSe2, PbO等 |
ビスマスカルコゲナイド | Bi2Se3, Bi2Te3 |
層状高温超伝導化合物 | Bi2Sr2CaCu2Ox, LaFeAsO1-xFx等 |
水酸化2価金属 | M(OH)2: M=Mg,Ca,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Cd等 |
ハロゲン化金属 | MgBr2, CdCl2, CdI2, Ag2F, AsI3, AlCl3等 |
層状ケイ酸塩,粘土 | 雲母,滑石,カオリン等 |
多くの層状物質は絶縁体/半導体であるが,中心金属が5族元素の遷移金属ダイカルコゲナイドは金属となり,超伝導を示す化合物も存在する(2Ha-NbS2, 2Ha-NbSe2等)。以下,筆者が主な研究対象としている遷移金属ダイカルコゲナイドと13族層状カルコゲナイドの結晶構造と物性について述べる。
遷移金属ダイカルコゲナイド†
遷移金属ダイカルコゲナイド(MCh2)には60種類近い物質が属し,そのうちおよそ3分の2が層状の結晶構造を持っている6)7)8)9)。層状構造を持つMCh2に属する物質には,単位層内のカルコゲン元素Chの中心金属Mに対する配置の形式に2種類ある(図1)。一つは正八面体型配置,もう一つは三角プリズム型配置である。どちらの形を取るかは,M-Ch間結合のイオン性に大きく依存する。結合のイオン性が大きい場合には,中心のMに結合する上下のCh原子間の斥力が大きくなり,正八面体型配置となる。一方共有結合性が大きい場合には,三角プリズム型配置となる。このため4族(Ti, Zr, Hf)化合物は主に正八面体型配置を,6族(Mo, W)化合物は三角プリズム型配置を持ち,5族(Nb, Ta)化合物はどちらの配置も取る。
層状MCh2では各単位層のc軸方向の積み重なり型の違いにより様々なポリタイプが存在し,物性もそれにより異なる。例えば天然に唯一存在する層状MCh2であるモリブデナイトMoS2は三角プリズム型の配置構造を持ち,主に2Hb型の積層構造を取る。MoSe2も2Hb型の積層構造を持ち,一方金属であるNbS2やNbSe2は主に2Ha型の積層構造を取る(図2)。他のポリタイプにおける積層構造を図3に示す。あるMCh2がどのポリタイプを取るかは,その組成も大きく影響する。NbSe2の場合,化学量論比が正しく1:2であれば2Ha型の積層構造を取るが,Nbが過剰になると3R型になり易くなる。なお正八面体型配置のMCh2は1T型の積層構造となる。それぞれの化合物での格子定数を表2に示す。
a (Å) | c (Å) | a (Å) | c (Å) | ||
2H-NbS2 | 3.31 | 2×5.945 | 2H-MoS2 | 3.16 | 2×6.147 |
3R-NbS2 | 3.33 | 3×5.967 | 3R-MoS2 | 3.164 | 3×6.13 |
2H-NbSe2 | 3.449 | 2×6.27 | 2H-MoSe2 | 3.288 | 2×6.46 |
3R-NbSe2 | 3.45 | 3×6.29 | 3R-MoSe2 | 3.292 | 3×6.464 |
4H-NbSe2 | 3.44 | 4×6.31 |
層状MCh2の物性は,その中心金属Mの違いにより大きく異なる。ChがS又はSeの場合,中心金属Mが4族(Zr, Hf)であるMCh2は,ワイドギャップ半導体となる。ただしTiのカルコゲナイドは半金属となる。Mが5族(V, Nb, Ta)の場合は,MCh2は金属となり,NbSe2は2Haタイプの積層構造のものが超伝導(超伝導転移温度 = 7.0~7.35K)を示す。Mが6族(Mo,W)の場合は,MCh2は半導体となる。これらの性質については,電子帯構造から次のように説明される。
層状13族カルコゲナイド†
カルコゲナイド系層状物質単層試料の作製手法†
カルコゲナイド系層状物質バルク単結晶の形成手法†
粘着テープ剥離法による単層形成†
インターカレーションによる単層剥離法†
極性有機溶媒中での超音波照射による単層剥離法†
ファンデルワールス・エピタキシー法†
カルコゲナイド系層状物質の新奇物性探索†
単層MoS2の物性変化に関する研究†
トポロジカル絶縁体Biカルコゲナイド†
層状物質のデバイス応用例†
太陽電池への応用例†
薄膜FETへの応用例†
おわりに†
参考文献†
(1) K. S. Novoselov et al., Science, 306, 666 (2004).
(2) K. S. Novoselov et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 102, 10451 (2005).
(3) A. K. Geim et al., Nature Mater., 6, 183 (2007).
(4) K. S. Novoselov, Rev. Mod. Phys., 83, 837 (2011).
(5) A. K. Geim, Rev. Mod. Phys., 83, 851 (2011).
(6) J. A. Wilson and A. D. Yoffe, Adv. Phys., 18, 193 (1969).
(7) R. Coehoorn et al., Phys. Rev. B, 35, 6195 (1987).
(8) 日本化学会編,「低次元物質の化学」,化学総説No. 42,日本化学会 (1983).
(9) A. Aruchamy: “Photoelectrochemistry and Photovoltaics of Layered Semiconductors”, Kluwer Academic Publishers (1992).